老眼とは?

目のオートフォーカス機能がなくなり、徐々に近くが見えにくくなってきます。この、加齢現象を老眼(老視)と言います。

人間は目の中でレンズの役割をする水晶体を厚くしたり薄くしたりして、遠くや近くにピントを合わせています。
若い頃の水晶体の機能は素晴らしく、自分の見たい距離に無意識のうちにオートフォーカスでピントが合います。
近視や遠視、乱視等の屈折異常のある方でも、眼鏡やコンタクトレンズを装用すれば
無意識のうちに見たい距離にピントが合います。

45~50 歳前後になると徐々に水晶体が固くなり、厚くなったり薄くなったりすることが出来なくなります。
すると、オートフォーカス機能がなくなり、徐々に近くが見えにくくなってきます。
この、加齢現象を老眼(老視)と言います。

多焦点眼内レンズとは?

焦点眼内レンズの欠点を補うため、遠くも近くもピントがあうように作られた眼内レンズが多焦点眼内レンズです。

白内障手術時に挿入する従来の眼内レンズ(単焦点眼内レンズ)はピントが合う位置が1カ所しかありません。
そのため遠くが見えるような眼内レンズを移植すると近くはピントが合わなくなる老眼になり、
近用または遠近両用眼鏡が必要になります。

単焦点眼内レンズの欠点を補うため、遠くにも近くにも、
ピントがあうように作られた眼内レンズが多焦点眼内レンズです。

単焦点眼内レンズ(健康保険)

単焦点眼内レンズの見え方

遠くにピントを合わせた場合、遠くの風景やテレビはよく見えますが、近くのスマートフォンやコンピューターはぼやけます。老眼鏡などが必要です。

※近くにピントを合わせた場合は、手元は裸眼で見えますが、中間~遠方は眼鏡が必要になります。

多焦点眼内レンズ(選定療養、自由診療)

多焦点眼内レンズの見え方

眼鏡なしで、遠くの風景やテレビ、近くのスマートフォンやコンピューターにピントが合います。

当院での多焦点眼内レンズを用いた白内障手術の実績

2007年に多焦点眼内レンズ(遠近両用眼内レンズ)が厚生省に認可され、日本でも白内障とともに老眼も治せる時代になりました。

当院では1900件以上の多焦点眼内レンズ手術を行ってきました。
多焦点眼内レンズはすさまじい速度で技術開発が進み、多くの方がその恩恵を得ています。
そのため、手術をすれば若い頃と同じような見え方に戻ると
過大な期待をされる方もいます。しかし、最新の多焦点眼内レンズでも、
若い頃のオートフォーカス機能を持った水晶体にはかないません。 
とは言っても、当院での長年の実績からも多焦点眼内レンズを受けられた多くの方が
眼鏡をほとんど必要としない快適な生活を送っているのは事実です。
院長の母親、副院長の母親も多焦点眼内レンズで手術を行いました。

白内障手術の実績 
合計9,997件

           

多焦点眼内レンズを用いた白内障手術の実績 
合計1,963件

            

                     (2023年末集計)

年間約1,000件の白内障手術を行っています

        

多焦点眼内レンズ術後の裸眼視力と眼鏡の使用率

多焦点眼内レンズ術後の裸眼視力

多焦点眼内レンズの術後裸眼視力(当院での167眼のデータ)
  • 遠方裸眼視力
  • 近方裸眼視力

古賀貴久、古賀朋代. アポダイズ回折型多焦点眼内レンズの術後裸眼視力に関与する因子.
日眼会誌119:846-854 2015. より改編

多焦点眼内レンズ術後の年齢と裸眼視力1.0以上の割合

白内障術後の視力はどこで決まるの?

ヒトは目に入った情報を網膜で感じ取り視神経を通って脳に伝わり物を見ています。白内障手術はどの方も同じように行いますが、最終的には脳神経がどれくらい元気に働いているかで術後の視力は決まります。高齢になると脳神経も老化するため、単焦点でも多焦点でも視力回復に限界があります。
若い時と同じようには見えません

単焦点・多焦点眼内レンズの眼鏡の使用率

まとめ

多焦点は単焦点に比べて眼鏡の使用頻度を減らす効果があります。
多焦点のほとんどの方(96%)が遠方裸眼視力0.7以上、近方裸眼視力0.5以上になり、車の運転も法律的にも眼鏡が不要になり、新聞の字も読めるようになり、日常的にはほぼ眼鏡が不要になります。
しかし、運転する時は遠くまで出来るだけハッキリ見たい方や、新聞の字よりも小さなものを見たい方は眼鏡で対処されています(約15%)。特にコンピューター作業をする方や長時間の読書をする方は眼鏡を掛けた方が楽と言われます。
手術後に生活してみて、見えにくい場面があるようでしたら、ご相談ください。

多焦点眼内レンズの欠点

コントラスト(くっきりさ)がやや劣る

多焦点眼内レンズは目に入る光を遠近もしくは遠中近に分ける原理のため、健康保険の単焦点に比べて、コントラスト(見え方のくっきりさ)がやや劣るという欠点があります。普通は1週間から1か月程度で見え方に慣れ自然な見え方になり、日常生活で問題になることはほとんどありません。

ただし、①細かいものまでくっきり見たい方、②神経質な方、③白内障以外の目の病気がある方、④脳機能の低下したご高齢の方には不向きと言われています。

グレア・ハロー

夜間に強い光(対向車のヘッドライトなど)を見たときに光をまぶしく感じたり(グレア)、光の周辺に輪がかかって見えたり(ハロー)する症状です。このグレア・ハローは正常な水晶体より眼内レンズの方が強く、単焦点眼内レンズより多焦点眼内レンズの方が強いと報告されています。手術直後に強く感じ、徐々に順応して1~2か月で気にならなくなる方がほとんどです。夜間の運転をよくする長距離トラック運転手やタクシー運転手、小さなことが気になる神経質な方は多焦点眼内レンズは不向きと言われていましたが、3焦点眼内レンズではかなり改善されました。

夜間にハロー・グレアを感じることがあります
通常の見え方
ハロー・グレアの見え方
時間とともに軽快し、気にならなくなる方が多いようです

多焦点眼内レンズの費用

選定療養と自由診療の違い

わが国で多焦点眼内レンズの手術を受ける場合、選定療養か自由診療のどちらかの制度で受けることになります。選定療養で使用可能な多焦点眼内レンズはすべて厚労省に承認されたレンズです。選定療養では白内障手術の技術料、術後の検査、診察、投薬の費用が健康保険の適応で、多焦点眼内レンズに係る費用が全額自己負担です。そのため、自己負担額が自由診療より安くなる利点があります。

一方、厚労省の承認のない比較的新しい眼内レンズは自由診療となり、白内障手術自体の技術料の他に、術後の検査、診察、投薬の費用も自己負担になりますが、当院ではそれらすべてを自由診療の費用に含んでいます。自由診療の価格が選定療養に比較すると高いと思われるかもしれませんが、白内障手術自体の技術料、術後の検査、診察、投薬費用も含まれていることを考えると実は価格の差はあまり大きくはありません。

「選定療養:多焦点眼内レンズに係る費用」と「自由診療」費用のお支払い方法 : 銀行振込
         
※健康保険適応のご費用に関しては、窓口で現金でのお支払いとなります。

当院で使用している多焦点眼内レンズ

各種多焦点眼内レンズの特長

回折型3焦点

ファインビジョン(ベルギー)自由診療

2011年に発売された世界初の回折型の3焦点眼内レンズで、日本でも多くの方に使用されてきたレンズです。中間は約70cm、近方は約35cmのところに焦点が合い、光の損失は14%です。光エネルギー配分は遠方に43% と多く、次に読み書きに必要な近方35cmに28%、最後にコンピューターなどの中間70cmに15%とバランスがよく(瞳孔3mmのとき)、近方の焦点距離が35cmと日本人の体型に適した距離です。

一般的な回折型のギザギザした断面(左図)をスムーズにして(右図)、
乱反射を抑え、グレア・ハローを少なくしている

光のエネルギー配分
遠方 43%
中間(70cm) 15%
近方(35cm) 28%
光の損失 14%
総合評価
遠中近のバランスがよく日本人に最も適した3焦点眼内レンズ。迷う方はこれを。
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)
パンオプティクス(米国)選定療養

中間は約60cm、近方は約40cmに焦点が合う選定療養の適応となっている3焦点眼内レンズ。光エネルギーの配分は遠方が44%、中間が22%、近方が22%(瞳孔径3mmのとき)で、近方が22%のため薄暗いところでは、見えにくく感じることがありますが、手元を明るくすることで対処できます。光の損失は12%です。しかし、身長の低い方では近方焦点距離の40cmが遠く感じる方がいます。遠方から40cmくらいまで見たい方には最適なレンズ。グレア・ハローも従来の2焦点レンズより改善されました。

遠方から40cmくらいにピントが合う

光のエネルギー配分
遠方 44%
中間(60cm) 22%
近方(40cm) 22%
光の損失 12%
総合評価
遠方~40cmくらいが見やすくなるレンズ。当院で最も多く使用されている多焦点眼内レンズ。
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
33万円
(乱視なし)
38.5万円
(乱視あり)
レイワン(イギリス)自由診療

世界で初めて眼内レンズを製造したイギリスのレイナー社が2017年にEUでCEマークを取得し販売開始した新しい3焦点眼内レンズ。中間は約70cm、近方は約35cmに焦点が合い日本人に適した距離です。光の損失も11%と小さく、光のエネルギー配分は遠方が46%、中間が20%、近方が23%です。もともと遠視や正視で遠くは裸眼である程度見えていた方には最適なレンズです。比較的新しいレンズで日本でのデータはまだ少ないのが現状です。

光のエネルギー配分
遠方 46%
中間(70cm) 20%
近方(35cm) 23%
光の損失 11%
総合評価
遠中近のバランスがよく日本人に適したレンズ。国内実績はまだ少ない。
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)
アルサフィット(ドイツ)自由診療

2018年にEUでCEマークを取得し販売が始まった比較的新しい3焦点眼内レンズ。中間は約70cm、近方は約35cmのところに焦点が合い、光エネルギーの配分は遠方が33%、中間が32%、近方が26%です(瞳孔3mmのとき)。遠方のエネルギー配分が33%と比較的少ないため、車の運転をする方、遠方をしっかり見たい方は物足りなく感じる可能性があります。コンピューター作業や料理に必要な中間距離 (70cm)の光のエネルギー配分が32%と多いため、大都会に多い車の運転をしないデスクワーカーや、車の運転をしない主婦などに適したレンズです。

光学部6mmすべてが同心円状のスムーズな波状の回折パターンで、光の乱反射が比較的少なく、光のグレアやハローが回折型多焦点の中では少ない構造となっています。光の乱反射が少なく多くの光を有効に使用できるため光の損失は8.6%と回折型の中では非常に小さな値です。

一般的な3焦点レンズの断面:ギザギザの部分が乱反射してグレア・ハローや光の損失の原因となる。

アルサフィットの断面:波型の断面で光を分けるため乱反射が少なくグレア・ハローや光の損失が少ない。

光のエネルギー配分
遠方 33%
中間(70cm) 32%
近方(35cm) 26%
光の損失 8.6%
総合評価
遠方がやや弱く、車の運転をしない遠方をあまり重視しない人に向いている。
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)
アクリバ・トリノバ(オランダ)自由診療

2017年にEUでCEマークを取得し販売が開始された比較的新しい3焦点眼内レンズ。中間は約90cm、近方は約45cmの焦点距離で、光のエネルギー配分は遠方が36%、中間が30%、近方が26%で(瞳孔3mmのとき)、遠中近すべての距離で同じような見え方になります。

レンズの表面はギザギザが少ないなめらかな同心円状のパターンのため、光の乱反射が比較的少なく、光のグレアやハローが回折型多焦点の中では少ない構造です。光の乱反射が少なく多くの光を有効に使用できるため光エネルギーの損失は8%と回折型の中では非常に小さな値です。

遠中近の光エネルギーの配分のバランスが良く光の損失も少ない優れたレンズですが、世界一平均身長の高いオランダのレンズであり、近方の焦点距離が45cmで、平均的な体型の日本人では遠く感じます。手足の長い身長の高い方に適したレンズです。

一般的な3焦点レンズの表面と断面:ギザギザの部分が乱反射してグレア・ハローの原因、光の損失の原因となる。

アクリバ・トリノバの表面と断面:なめらかな正弦波パターンで光を分けるため乱反射が少ないためグレア・ハローが少なく、光の損失も少ない。

光のエネルギー配分
遠方 36%
中間(90cm) 30%
近方(45cm) 26%
光の損失 8%
総合評価
近方の焦点距離が45cmと遠く、手足の長い身長の高い方に向いている。
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)

回折型2焦点

テクニスマルチ(米国)選定療養

2009年に国内で承認された歴史と数多くの実績のある2焦点眼内レンズ。初期の多焦点眼内レンズのため光の損失が18%と多く、光エネルギーは遠方に41%、近方に41%配分されます。このレンズには近方焦点距離の違いから、以下の3つのモデルがあります。

①読書や裁縫に適した30cm
②ノートパソコン、スマートフォンに適した40cm
③料理やデスクトップパソコン、スポーツに適した50cm

中間距離の視力の落ち込みがあるため、最近は3焦点を選ぶ方が増え、使用頻度が減ってきています。近方焦点距離が30cmのものはこのテクニスマルチしかないため、より近い距離が見たい方にはおすすめです。

ただし、乱視対応のものはありません。

光のエネルギー配分
遠方 41%
近方(30・40・50cmの3種) 41%
光の損失 18%
総合評価
30cmタイプはより近い距離が見たい方におすすめ。
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
22万円

屈折型2焦点

レンティスMプラス(ドイツ)自由診療

上方が遠方、下方が近方約45cmのところに焦点が合う単焦点レンズを組み合わせた多焦点眼内レンズ。光エネルギーは遠方に55%、近方に40%配分され、回折型レンズと比べて光の損失が5%と非常に少なく、しかも単焦点眼内レンズの組み合わせのため、コントラスト(見え方のくっきりさ)が良いレンズ。遠方と近方(約45cm)の2焦点ですが、それぞれのコントラストが良いため中間の見え方の落ち込みが少なく、近方も35cmから55cmくらいまでピントが合います。乱視矯正用レンズは0.01D刻みと従来の眼内レンズの50倍の精度でオーダーメイドで作成できる世界最高精度のレンズです。

しかし、欠点としてゴーストと呼ばれる物がダブって見える現象があり、神経質な人や脳機能の低下した高齢者は注意が必要です。

回折型のような同心円状の溝がないためハローは少ないと言われています。遠方と近方の境目があるため、強い光を見ると乱反射して見えるグレアがあります。

遠方と35~55cmくらいに焦点が合う。中間の落ち込みは少ない。

光のエネルギー配分
遠方 55%
近方(45cm) 40%
光の損失 5%
総合評価
コントラストはよいが、高齢者ではゴースト現象を感じることがある
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)

回折型5焦点

インテンシティ(イスラエル)自由診療

独自の技術(特許技術)で、光の損失を6.5%と回折型の中では極めて少なく抑えることで、光を最大限効率的に利用できるレンズ。遠方5mに36%、133cmに7%、80cmに21%、60cmに9%、40cmに21%(光の損失6.5%、瞳孔径3mmの時)に光を分けて5つの焦点を実現。

  • 各距離での見やすさ(MTF曲線)

    各距離での見やすさ(MTF曲線)
    遠方、80cmの中間距離、40㎝の近方が見やすくなります

  • 各回折型多焦点眼内レンズの光の損失

    各回折型多焦点眼内レンズの光の損失
    インテンシティは光の損失が6.5%と少なく効率的な眼内レンズです

  • 回折レンズの特徴である光を分けるレンズ表面のギザギザをスムーズにしてグレア・ハローを少なくしている

光のエネルギー配分
遠方 36%
遠中(133 ㎝) 7%
中間(80㎝) 21%
中近(60㎝) 9%
近方(40㎝) 21%
光の損失 6.5%
総合評価
最新技術で光の損失を6.5%までに抑えた効率的な眼内レンズ
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)

連続焦点タイプ

テクニスシナジー(米国)選定療養

わが国で承認され現在まで使用されている最も歴史のある2焦点眼内レンズ・テクニスマルチと焦点拡張タイプのシンフォニーとの技術を融合して作った米国AMO社の最新の多焦点眼内レンズ(2021年5月発売)。遠方から手元(30cm)まで広範囲に連続的に見えるように設計されています。

裸眼視力が片眼で0.8程度、両眼で1.0程度見えると報告されています。遠方から近方まで幅広く光を分けるため、遠方の方がやや見えにくく感じる方がいます。その場合は、反対の眼に遠方優位タイプの眼内レンズを用いるなどの対処法を考えます。

  • 遠方から近方30cmまで連続的にピントが合う

    遠方から近方30cmまで連続的にピントが合う

  • 遠方から近方30cmまで平均視力0.8~1.0程度になったとされています(メーカー資料)

    遠方から近方30cmまで平均視力0.8~1.0程度になったとされています(メーカー資料)

光のエネルギー配分
連続焦点のためデータなし
総合評価
遠方から30㎝まで連続的に見えるという最も理想的なコンセプトで作られたレンズ
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
33万円
(乱視なし)
38.5万円
(乱視あり)

遠方優位タイプ

多焦点眼内レンズの欠点であるコントラストがやや劣ることを改善するため、近方への光配分を減らし、遠方と50cm前後くらいが見えるようにした2焦点眼内レンズ。そのため、手を伸ばすと新聞が見えるくらいの初期老眼のような見え方になります。逆に近くが眼鏡なしで見たいという要望が強い方はがっかりされることもあります。単焦点眼内レンズと従来の多焦点眼内レンズとのちょうど中間のような位置づけのレンズです。

アイシー(日本)選定療養

中央2.3mmが遠方が見える単焦点、その回りにドーナッツ状に近方50cmに焦点の合う単焦点、最周辺部に遠方が見える単焦点の3つの単焦点の組み合わせから成る屈折型2焦点眼内レンズ。レンズ全体の面積配分から考えると遠方が85.5%で、近方が14.5%になり、中央2.3mmと結構広い部分が遠方に焦点が合う単焦点のため、遠方の見え方は単焦点眼内レンズと遜色ありません。近くは50cmの所が単焦点より見えるようになりますが、近くの見え方を期待している人には物足りなく感じます。近くがもう少し見たい場合は近用眼鏡(老眼鏡)で対処できます。それぞれのレンズの境界部分が乱反射するためグレア、ハローを強く感じる方がいて、夜間の運転を重視したい方には不向きです。乱視対応のものもありません。

光のエネルギー配分
遠方 85.5%
近方(50cm) 14.5%
総合評価
遠くの見え方は非常に良い。近くは50cm焦点で遠方の見え方より劣る。
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
22万円

焦点拡張タイプ

今まで紹介した多焦点眼内レンズが遠近、または遠中近に光を分けるコンセプトで作られているのに対し、ピントの合う幅を広くして遠方~近方まで連続的に見えるようにしようというコンセプトが焦点拡張タイプです。

ビビティ(米国)選定療養

 2023年に日本で承認された新しい多焦点眼内レンズ。光を分けることなく遠方から50㎝くらいまでの広い範囲で焦点が合うが、近方の見え方は個人差があります(若い人ほど良好)。40歳代後半から50歳代前半の初期老眼に近い見え方。原理的に新聞や雑誌の小さな文字をはっきり見たい時は眼鏡を掛けた方が見やすいと考えられます。
 光を分けないため、従来の多焦点で弱点とされていたコントラストは単焦点と同程度に良好で、夜間の光の乱反射(グレア・ハロー)も単焦点と同程度に少ないと言われています。そのため、従来の多焦点が不向きとされていた①脳機能の低下が予想される高齢者(75歳以上)、②細かい所までクッキリ見たい方(ビビティでは見えにくい場合は眼鏡で単焦点同様のコントラストが得られる)、③比較的軽度な目の病気のある方(初期緑内障や軽度の網膜前膜など)、④夜間の運転を重視する方にも使用できます。
 ただし、乱視対応のものはありません。

ビビティの光量分布シュミレーション
総合評価
多焦点の欠点とされてきたコントラストやグレア・ハローは単焦点と同程度に改善。
ただし、近くの見え方は3焦点や2焦点より劣る。
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
33万円(乱視なし)
※乱視対応はない
ミニウエル(イタリア)自由診療

ミニウエルレディ
正の球面収差と負の球面収差のレンズを組み合わせた新しいコンセプトの多焦点眼内レンズ。遠方から50cmくらいまでの範囲にピントが合います。
グレア、ハローは単焦点と同程度に少ないと言われています。

総合評価
多焦点の欠点とされてきたコントラストやグレア・ハローは単焦点と同程度に改善。
ただし、近くの見え方は3焦点や2焦点より劣る。

ミニウエルプロクサ
ミニウエルレディの収差部分を拡大し遠方から30cmくらいまでの範囲にピントが合うように作られたレンズ。近方の見え方はミニウエルレディより良好だが、遠方~中間にかけてはやや劣る。また、ミニウエルレディでは感じにくいグレア・ハローも感じる可能性がある。そのため、片眼をミニウエルレディで手術し、もう少し近方を見たい方に使用することが勧められている。

総合評価
ミニウエルレディより、近方の見え方が改善。ただし、遠方~中間の見え方はやや劣る。
手術費用(片眼)
乱視なしの場合 乱視ありの場合
55万円(税込) 63万円(税込)
シンフォニー(米国)選定療養

回折型レンズで遠方から50cmくらいまでの範囲にピントが合います。ハローが比較的強いのが難点。

総合評価
ハローが比較的強いのが難点
手術費用(片眼)
白内障手術の技術料(健康保険適応) 多焦点眼内レンズに係る費用(税込)
1割負担 約1.3万円
2割負担 約2.6万円
3割負担 約4万円
22万円
(乱視なし)
27.5万円
(乱視あり)

当院での各種多焦点眼内レンズの術後裸眼視力、アンケート結果(対象:2020年4月~2022年1月に手術を受けられた方)

当院での各種多焦点眼内レンズの術後裸眼視力、アンケート結果
    
当院での各種多焦点眼内レンズの術後裸眼視力、アンケート結果

年齢と遠方裸眼視力の関係 (4種類のレンズを合わせて集計、合計78人156眼)

年齢と遠方裸眼視力の関係(4種類のレンズを合わせて集計、合計78人156眼)

ヒトは目に入った情報を網膜で感じ取り視神経を通して脳に伝わり物を見ています。白内障手術はどの方も同じように行いますが、最終的には脳神経がどれくらい元気に働いているかで術後の視力は決まります。高齢になると脳神経も老化するため、単焦点でも多焦点でも視力回復に限界があります。若い時と同じようには見えません。

アンケート内容
3焦点自由診療ファインビジョンの感想より
  • (60歳代女性、満足度10点)

    昔は遠くも近くも見えていた軽い遠視の私は2年前に多焦点眼内レンズの存在を知り、早く白内障になりたいな~と思ってました。今回、狭隅角眼ということでダメ元で受診して手術可能と言われた時は夢のようでした。ここまで見えるようになるとは思わず感動です。メガネなしで小さな文字が書けるようになりました。感謝!

    ここで手術した人から話を聞いて受診しましたが、設備や先生のお人柄、手術の技術、スタッフの方の素晴らしい対応など感心するばかりだったので、私も人にすすめたいし、こんな快適なメガネなしの生活を他の人にも1日も早く味わってほしいと思っています。

  • (70歳代女性、満足度9点)

    眼鏡をかけず生活ができ、面倒なことからひとつ解放された。まゆなどが描きやすくなった。おしゃれにもメイクにも関心がでてきた。

  • (60歳代女性、満足度9点)

    メガネが必要なく、遠くも近くも良く見え満足。白くにごり見えなかった時を思うと早く手術を受けるべきだったなと思う。手術時間も短く痛みもなくすばらしいと思う。

  • (70歳代女性、満足度9点)

    望み通りメガネがいらなくなったが、極端に近い時を見る時は見えづらい時がある。

    知人にも白内障の手術をした人がいるが、他の眼科ではレンズの説明が不十分ではないかと思う(どのレンズを選択するにしてもいろいろな種類があることを知るためにも)。特に、多焦点レンズについては、全然聞いてない知人がいる。

  • (60歳代女性、満足度8点)

    針に糸を通すことができる。幸せです。

院長からのコメント

遠方、中間、近方のバランスの良いレンズで、術後の視力の値、自覚症状も優れています。

3焦点パンオプティクスの感想より
  • (20歳代男性、満足度10点)

    手術を受けて、生活や仕事が快適になった。

    手術前の説明から期待していた以上に見えるようになった。

  • (60歳代女性、満足度10点)

    近くも遠くも見えて違和感がない。

    痛くなく安心して手術を受けることができた。

  • (60歳代男性、満足度9点)

    強い近眼で(裸眼視力 0.01)コンタクトの生活でしたが、朝目が覚めた瞬間から視力が1.0~1.2で見え、遠近ともメガネなしで生活ができ、大変満足しております。

  • (60歳代男性、満足度9点)

    多焦点レンズの場合は、単焦点と比べてピントが少し合わないと思っていたが、そんなことはなくくっきりと見えている。イメージより良く見えています。

    日常生活が裸眼ででき、パソコン、スポーツ、運転、読書などすべてにおいて見え方が変わり快適になった。

    白内障のときは視野が狭いし暗いのでイライラもするし、危険なこともありました。術後の眼帯を外した時の明るさは感動ものでこの感動を人に勧めたくなります。

    術前術後、院長先生はじめスタッフの皆さんには大変お世話になりました。多焦点眼内レンズが早く保険適応になればいいなと思います。なぜなら、レンズの選択肢が広い方が病院側から患者さんによりよい提案が可能になると思うからです。

  • (50歳代女性、満足度9点)

    遠くも近くも見えるようになったが、若い時(老眼鏡も必要なく、白内障でもない時)に比べるとやはり劣る。

    老化(加齢)に伴うものだと思うが、焦点(?)を合わせるのに少し時間がかかるような感じがする。

  • (20歳代男性、満足度8点)

    視界の混濁がなく、よく見える。

    他の人にも是非すすめたいが、費用面を考えると100%勧めたいとは言えない。

  • (70歳代男性、満足度7点)

    40-60㎝くらいは鮮明に見えるが、遠くなるほど2重に見えシャープさにかける。

    今回の手術では多焦点レンズを選んだが、できれば同じレンズで手術した方の体験談があればレンズ選びの時に参考になると思う。

  • (60歳代女性、満足度2点)

    眼鏡をかけずに生活ができるのはとても良かったと思います。しかし目の疲れをとても感じます。

院長からのコメント

遠方、近方とも術後視力は比較的よいレンズです。自覚的には遠方に比べて近方がやや見えにくく感じる方がいるようです。近方が40cm、中間が60cm焦点のため、欧米人に比べ身長の低い日本人には手元が見えにくく感じることがあるのではないかと思います。

2焦点テクニスマルチの感想より
  • (70歳代女性、満足度10点)

    きれいに見える感動で毎日幸せです。ハロー・グレアを心配していたがほとんど気になりません。

    色々な物、風景がきれいに見えるのでイライラ感がなくなりました。医学の進歩、先生の技術に感謝しています。

    知り合い又、友達も私の視力にビックリしています。その都度手術を説明して、もし白内障になったら…と眼科こがクリニックをすすめています。1回目の手術はとても恐かったのです。しかし、先生が術中に、「順調にいっていますよ」とか、「音がしますよ」とか説明されたのが気分を落ち着けました。必要な事のみ話されていたのが良かったです。ベッドをしっかり握りしめていました。緊張しました。視力が回復して感謝でいっぱいです。

  • (50歳代女性、満足度10点)

    不便に思うことが減り、眼鏡を持ち歩く必要がなくなった。

  • (70歳代女性、満足度8点)

    近方焦点距離を右)30㎝、左)40㎝にしましたが、これが正解だったのか?同じにした方がよかったのか?何だか、目の疲れがあるような気がします。

院長からのコメント

2009年に厚労省に承認された歴史のあるレンズで、遠方、近方の2つの焦点というシンプルな構造です。近方30cmに焦点があうタイプがあり、近視で裸眼で近くを見る習慣のある人にも比較的対応しやすいレンズです。私の母親にもこのレンズを使用しました。最近はグレア・ハローが比較的少なく中間距離の落ち込みもなくなった3焦点の出現により出番が少なくなりました。

乱視対応のものはなく、乱視の強い人には不向きです。

連続焦点シナジーの感想より
  • (50歳代女性、満足度10点)

    今まで40年間近くコンタクトと眼鏡を併用していたが、裸眼で不自由なく生活できてとても満足しています。40歳位にレーシックの手術を受けたくて病院を訪問したのですが、角膜が薄くて手術できないと2ヶ所で言われ、一生コンタクト、眼鏡の生活と思っていたのに、裸眼で生活できることに感激です。老眼の問題も解消されて大変感謝しています。

    近くも遠くも不自由なく見ることができるようになり驚いています。白内障になり当初落ち込んでいたのですが、手術をすることで病気になる前よりも快適に過ごせるようになって近視、老眼の問題が解消され本当にありがとうございました。

  • (80歳代男性、満足度9点)

    遠近両方よく見える。

    よく見えるようになり気分が晴れる。

    視力が気になりだしたら早めにした方がよい(元気な内に)。

  • (60歳代女性、満足度8点)

    視力がもっと回復するのを期待していたが、メガネが不要になるところまでにはならなかったのがちょっと残念に思った。術後2ヶ月くらい経過して手術直後よりよく見える様になってきたと感じているので、今後もう少し改善するのを待ってみたい。

    遠くが思ったより見えづらくメガネは必要そうだが、今までの見えないストレスからは解放されとても良かった。

    術前の期待が大きかったので、他の人にすすめるのにはちょっと考える。

  • (60歳代女性、満足度8点)

    光や天気等により見えづらい時がある(運転中や遠く)。

    日常のわずらわしさが無くなって良い。

    手術前に見え方のシミュレーションができるようになってくれれば良い。

  • (60歳代男性、満足度7点)

    コンタクト、眼鏡を両方とも使用したくなかったのですが、結局眼鏡を購入し使用する事になった。仕事(調理)はすごくやりやすくなったが、グレアハローがこんなにひどいとは思わなかった。

    暗く見えていた分、明るく見えるようになったのはすごく良かったと思うが、夜の運転が手術前よりひどくなった。

  • (70歳代女性、満足度6点)

    もっとスッキリ見えるようになるかと期待しすぎたかもしれません。

    メガネをかけなくてよくなったのはうれしいです。もっとはっきり見えるようになればいいのですが。

  • (70歳代女性、満足度5点)

    新聞が見えづらい。年齢が高くなれば思うようには見えない。

    70歳代では若い人より視力改善の割合が少なくなるとのことだったので仕方ないかなと思っている。

院長からのコメント

遠方から近方まで連続的に見えるというコンセプトはよいのですが、光を幅広く連続的に分けているために、それぞれの光配分が少ないため、クッキリさに劣る印象です。ハロー・グレアの症状も他のレンズより強いようです。

多焦点眼内レンズについて知ってほしいこと

① 多焦点眼内レンズの構造による違い

屈折型と回折型

屈折型は遠方が見える単焦点と近方が見える単焦点を組み合わせたレンズです。中央が遠方が見える単焦点、その周辺に近方が見える単焦点、最周辺部に遠方が見える単焦点を組み合わせた同心円状のもの(アイシー)と、上半分が遠方が見える単焦点、下半分が近方が見える単焦点を組み合わせた分節型(レンティスMプラス)とがあります。屈折型の最大の利点は単焦点の組み合わせのためコントラスト(見え方のくっきりさ)がよいことです。欠点はアイシーでは近方部分が少ないため近方の見え方がいま一つなこと、レンティスMプラスは高齢者では遠近の境目のため、物がダブって見える可能性があることです。

回折型はレンズ表面に同心円状の回折溝があり、光がこの部分を通過する際に、光の回折現象を利用して光を遠近(もしくは遠中近)に振り分け、遠近(もしくは遠中近)がバランスよく見えるため、現在の主流は回折型レンズになっています。

屈折型
(アイシー)

同心円状に
遠方、近方、遠方の
3つのレンズの組み合わせ

屈折型
(レンティスMプラス)

上方が遠方、下方が近方の
2つのレンズの組み合わせ

回折型

多数の同心円状の
回折溝で遠近(遠中近)に光を分ける

② 多焦点眼内レンズのタイプを知る

 多焦点眼内レンズは見え方の違いから、大きく以下のように分けられます。まずは、どのような見え方を希望されるか考えてみてください。
2焦点とは? 3焦点とは?

最初に日本で普及した多焦点眼内レンズは近方30cmにピントが合う2焦点でした。このレンズの登場で遠くも近くも眼鏡なしで見ることが可能になりました。しかし、料理、人との会話、買い物で商品の陳列を見る時など50cm ~1mの中間距離がいま一つという欠点がありました。

この欠点を改善するため、目に入る光を遠近の2つに分けるのではなく、遠中近の3つに分け、遠方から近方まで自然な見え方になる3焦点眼内レンズが開発され、現在では主流になってきています。

ただし、近方焦点距離が30cmのものは2焦点しかありませんので、もともと近視で眼鏡を外して30cm前後、もしくはもっと近くで物を見る習慣のある人や、身長が低い方には、現在も2焦点が使用されています。

2焦点、3焦点の欠点はコントラストが単焦点よりやや劣ることと夜間の運転時に乱反射することです(詳しくは→多焦点眼内レンズの欠点)。多くの方は時間とともに見え方に順応し自然な見え方になります(脳順応)が、①小さなことが気になる神経質な方、②脳機能が低下した高齢者では脳順応が起こりにくく不向きです。

連続焦点タイプとは?

焦点拡張タイプと2焦点タイプの技術を融合して、遠方から近方まで連続的に見えるようにしたレンズ。遠方から近方まで幅広く光を分けるため、遠くがやや見えにくく感じることがあります。

遠方優位タイプとは?

多焦点眼内レンズの欠点であるコントラストが単焦点よりやや劣ることを改善するため、近方への光配分を減らし、遠方と50cm前後くらいにピントを合わせた2焦点眼内レンズです。外食する時のメニュー、買い物に行った時の値札、郵便物、新聞のテレビ欄など日常生活でちょっと近くが見たい時に、老眼鏡なしで50cm程度に少し離せば見えるというのは単焦点にはない利点です。

しかし、新聞をじっくり読みたい時、パソコンを長時間する時などは50cmは遠く感じる方が多く、眼鏡を使用した方が疲れにくいと思います。ちょうど50歳代前半の初期老眼の見え方に近いレンズです。

焦点拡張タイプとは?

今まで紹介した多焦点眼内レンズが遠近、または遠中近に光を分けるコンセプトで作られているのに対し、ピントの合う幅を広くして遠方~近方まで連続的に見えるようにしようという考え方が焦点拡張タイプです。コンセプトはよいのですが、現時点では遠方から中間くらいまで見えるというのが現状です。

多焦点眼内レンズの見え方のイメージ
2焦点、3焦点、連続焦点の見え方

2焦点、3焦点、連続焦点の見え方

遠近または遠中近が見えるが、
単焦点よりくっきりさはやや劣る

遠方優位タイプの見え方

遠くは単焦点同等にくっきり見えるが、
近くは遠くの見え方より劣る

③ 光エネルギー配分と焦点距離、光の損失について

多焦点眼内レンズは、目に入る光を遠方用、近方用(3焦点の場合はさらに中間)に分け、遠近(3焦点の場合は遠中近)とも見やすくする原理で作られています。そのため、術後の遠近(3焦点の場合は遠中近)の見え方は、目に入る光エネルギーをどのように分けるかで決まってきます。

光を分ける際に遠方、近方、中間のどこにもピントが合わない光が損失となります。そのため、光の損失が少ないレンズほど効率的なレンズになります。初期の多焦点眼内レンズでは光の損失が20%程度ありましたが、改良が重ねられ、最近のものは10%前後のものが多くなってきました。

レンズ選びで一番気にしてほしいのは焦点距離です。多焦点眼内レンズの多くは欧米で作られています。背の高い欧米人を対象に作られているため、焦点距離が40cm以上のレンズが多く日本人にとっては遠く感じることがよくあります。日本人でも身長が高く手足が長い方は大丈夫ですが、一般的な日本人体型の方は焦点距離が35cmのものがよいと思います。近視で眼鏡を使用していて、眼鏡を外して近くを見る習慣のある方は近方を見る時の距離が近いことが多々あります。また、身長が低い人は35cmの焦点距離でも遠く感じる方がいます。そのような方には30cmにピントが合う2焦点レンズがよいと思います。

実際に近方がどの距離が見たいかは新聞を読む時、スマートフォンやコンピューターを使用する時、裁縫をする時などの日常生活で自分がどの距離で見ているか、どの距離が見たいかをメジャーを使って測ってもらうのが一番良いと思います。

どの距離が見たいかメジャーを使って測る

  

多焦点眼内レンズの向き不向き

多焦点眼内レンズは見え方の違いから、大きく以下のように分けられます。まずは、どのような見え方を希望されるか考えてみてください。
多焦点に向いている方、単焦点に向いている方
  多焦点に向いている方 単焦点に向いている方
(多焦点に向いてない方)
見え方の要望 出来るだけ眼鏡を掛けずに
遠くも近くも(中間も)見たい
眼鏡を掛けてでも
くっきり見たい
年齢(脳年齢) 若い 高齢
性格 おおらか
前向き
神経質
完璧主義
ライフスタイル 右記以外の方 細かいものまで
くっきり見たいような
職業や趣味のある方
夜間の運転 しない
あまりしない
よくする
屈折の状態 遠視、正視、
近視でコンタクト使用の方
近視で眼鏡を使用し、
眼鏡を外して近くを見る方
白内障以外の
眼の病気
ない
あっても軽度
ある

①多焦点眼内レンズと年齢との関係

単焦点眼内レンズは1か所にピントが合い完全な老眼になる眼内レンズです。老眼を全く感じていない若い方が単焦点で手術を受けると、老眼の見え方の不自由さに初めて気づき不満をもつことが多々あります。50歳未満で老眼を全く感じない、もしくはわずかに感じる程度の方は老眼にならない多焦点眼内レンズの方が良いと思います。50歳代の方も遠近、遠中近が見える見え方に慣れやすく多焦点眼内レンズに向いています。

逆に、数十年間にわたって老眼の状態で生活してきた高齢者では単焦点の方が無難です。理由は、遠視や正視で老眼鏡を使用していた方にとっては、手術後も手術前と同じように老眼鏡を使用することになり、もともと近視で眼鏡を掛けていた人にとっては術後も同じように眼鏡が必要となるため、手術による見え方の変化が少なく慣れやすいからです。

よく聞かれるのが「何歳まで多焦点眼内レンズは大丈夫なのか?」という質問です。75歳までとか80歳までとか言われていますが、実際は実年齢より脳年齢が大切と考えられています。当院でも80歳以上でもテニスやゴルフが好きで若々しく見える方は多焦点眼内レンズにも良く順応されることを、何度も経験しています。逆に、70歳代でも軽度の認知症の方など脳機能が低下している方は順応しにくいこともあります。

②多焦点眼内レンズと性格との関係

多焦点眼内レンズの初期から、「神経質な方、完璧主義な方は多焦点眼内レンズに向かない」と言われていました。実際に多数の手術を行うと、その通りだと思います。多焦点眼内レンズは遠くも近くもピントが合うという大きな利点がある一方で、やや見え方のくっきりさ(コントラスト)が劣る、夜間の運転時に光が乱反射する(グレア・ハロー)という欠点があります。通常はこれらの欠点に対しては脳が順応していき、徐々に自然な見え方になっていきます。

ところが、神経質な方や完璧主義な方は、これらの小さな欠点ばかりを気にするあまり脳順応が起きにくく、手術自体に不満を感じるようになる方がいます。多焦点眼内レンズの大部分の方はとても満足されますが、単焦点眼内レンズに入れ換えてほしいと思う方が1%前後いて、当院でも実際に入れ換え手術を行っています。

もともと遠視や正視で遠くが見えていて老眼鏡を使用していた方にとっては術後も同じように老眼鏡が必要となり、もともと近視で眼鏡を掛けていた方にとっては術後も同じように眼鏡が必要となる単焦点眼内レンズの方が、手術による見え方の変化が少なく慣れやすいため、環境の変化への順応に時間がかかる神経質な方や完璧主義な方には無難と思います。

③多焦点眼内レンズとライフスタイルとの関係

多焦点眼内レンズは光を分けて遠近もしくは遠中近を見る原理のため、見え方のくっきりさ(コントラスト)は単焦点よりやや劣りますが、日常生活での眼鏡の必要性が少なくなります。スポーツ好きや旅行好きで社交的で活動的な方に大変喜ばれます。また、お客様の前で老眼鏡を掛けたくないようなサービス業、接客業の方にもとても喜ばれます。

一方で、細かいことまでくっきり見たい職業(例えばウエブデザイナーやコンピューターの細かい文字を一日中見ている仕事など)では、見え方がクッキリする単焦点で手術を受け眼鏡を掛ける方が向いています。

④多焦点眼内レンズと近視との関係

もともと近視で眼鏡を掛けていた方は眼鏡を外して近くを見る習慣のある方が多くいます。しかし、多焦点眼内レンズの多くは外国製で、近方の焦点距離が遠いものがほとんどです。そのため、もともと近視の方が多焦点眼内レンズの手術を受けると「近くが見えにくくなった」と不満に思われることが時々あります。今まで見えていた位置より焦点が合う位置が遠くなるためで、多くの方は新しい焦点距離に順応していきますが、環境の変化に順応しにくい神経質な方では、なかなか慣れないこともあります。

①近視で眼鏡を普段かけていて眼鏡を外して近くを見る習慣のある方で、②神経質な方は、多焦点は避けて単焦点で手術前と同じ程度の近視になるように手術して、出来るだけ環境の変化を小さくすることを勧めています。

⑤多焦点眼内レンズと白内障以外の眼の病気や脳の病気との関係

多焦点眼内レンズは目に入る光を遠近(または遠中近)に分けるため、すべての光を1か所に集める単焦点より見え方の質(コントラスト)は原理的に劣ります。ただし、網膜や視神経、脳の機能に問題がないと、このコントラストの差は、ほとんど問題になることはありません。

しかし、白内障以外の眼の病気(角膜の病気、緑内障、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症などの網膜の病気、視神経の病気など)がある場合は、白内障手術をしても、見え方の回復に限界があります。このような方に多焦点で手術を行うと、すべての光を1か所に集める単焦点よりずっと見えにくく感じる可能性があります。そのため、視力に関係するような白内障以外の眼の病気がある方は単焦点の方をお勧めしています。
(白内障以外の眼の病気が、ごく軽度の場合は多焦点でも問題ありません。手術前に検査してどの程度の視力改善が期待できるか説明します)

     

多焦点眼内レンズに不安を感じる方へ

①ミックス・アンド・マッチという方法

多焦点眼内レンズは様々な種類があり、それぞれ利点・欠点があります。左右に違うレンズを移植し、それぞれの利点を生かし、それぞれの欠点を補い合う方法をミックス・アンド・マッチと言います。

実際、術前にどのレンズがよいか迷われる方はたくさんいます。当院では、まず自分がベストと思われる眼内レンズを片眼に移植し、手術後にその見え方を十分に確認して頂いてから他眼の眼内レンズの種類を考える方法をとっています。例えば、もう少し近い距離を見たいなら他眼には焦点が合う位置が近いレンズを、もう少しはっきり見たいなら他眼にはコントラスト(くっきりさ)に優れたレンズを移植するなどして対処します。

手術後に見え方を確認するには、通常の日常生活、仕事、趣味、運転などいろいろな場面での見え方を確認して頂かなければならず、そのため両眼の多焦点眼内レンズを希望される方は2週間以上の間隔を空けて手術を計画します。片眼の手術の後に見え方に慣れにくい場合には一旦手術を延期して十分に見え方に慣れてから他眼の手術方法を考えます。手術後に見え方に不安がある、不満があるような場合は、遠慮せずに職員や医師に言ってください。今までの多数の経験から最も良いと思われる対応法を考えます。

②どうしても多焦点眼内レンズの見え方に慣れなかったら?

多焦点眼内レンズはコントラスト(見え方のくっきりさ)が単焦点よりやや劣ることが知られていますが、徐々に見え方に脳が順応して自然な見え方になります。多焦点眼内レンズのもう一つの欠点として夜間の運転時に対向車のヘッドライトが乱反射するグレア・ハローがありますが、ほとんどの方が数か月で見え方に脳が順応し気にならなくなります。しかし、環境の変化に順応しにくい神経質な方や、脳機能の低下したような高齢者の中には、なかなか脳順応が起こらずに、多焦点眼内レンズの見え方にどうしても慣れずに眼内レンズの入れ換え手術を希望する方が1%程度いると言われています。当院でも約1500眼の多焦点眼内レンズの手術を行ってきましたが、同じように約1%の方で単焦点眼内レンズに入れ換え手術を行いました。手術前に、多焦点眼内レンズが脳に順応できるかどうかが分かれば良いのですが、人の性格や脳機能を眼科医が手術前に正確に判断するのは難しく、実際は手術してみないと分からないというのが現状です。

一般に白内障手術では、術後徐々に眼内レンズと水晶体の袋がくっついて(癒着して)眼内で安定します。手術後3~4か月以内でしたらまだ癒着が少ないのでほぼ安全に眼内レンズの入れ換え手術を行うことが出来ますが、術後半年以上経ち癒着すると合併症が起こる可能性が高くなると言われています。当院では手術後3か月以内に多焦点眼内レンズから単焦点眼内レンズへ入れ換え手術をする場合は無料で行っています。

また、手術後どこにも異常がないにもかかわらず、「何となくかすむ」、「ふわふわ影が見えて見えにくい」と感じられる方の中に硝子体の混濁が原因の事があります。当院では硝子体手術を行っていませんので、硝子体手術の専門の施設に紹介し硝子体の濁りをとる手術を受けることで、見え方が改善することもあります。

眼内レンズの選択は、その後の人生の見え方を左右するので、どの眼内レンズが自分に一番合うか、あれこれ悩まれる方も多数いらっしゃいます。合わないと思う場合は、眼内レンズを入れ換えてやり直すというのも一つの手です。手術後に、見え方に不安や不満がある場合は気軽に医師や職員に相談して頂けたらと思います。一緒に解決法を考えます。

白内障手術のよくある質問

近視があっても受けられますか?
A. 基本的には受けられます。ただし近視が強い方は網膜の中心部の機能が落ちていて術後の視力が出にくいことがあります。
多焦点眼内レンズの度数の製造範囲外になるような強い近視の方では多焦点眼内レンズで手術できないことがあります。
手術自体のリスクは単焦点と違うのですか?
A. 基本的に手術の方法自体は変わりなく、手術時間も、合併症の頻度もほとんど変わりません。
ただし、多焦点眼内レンズは単焦点眼内レンズよりデリケートで、眼内レンズを傾きなく瞳孔中央に正確に固定する必要があります。
そのため、白内障手術に熟練した眼科医が行うべき手術です。
白内障は片目だけですが、片目の手術でも出来ますか?
A. 白内障の無い方の目の状態によりますが、基本的には手術できます。見えているつもりの反対の目にも白内障があることも結構あります。 左右の見え方のバランスが重要になるので、適応があるかどうかは十分な検査をしてからご説明します。
すでに片目は単焦点眼内レンズで手術を受けています。今回、逆の目が白内障になってきました。多焦点眼内レンズで手術が出来ますか?
A. すでに手術されている単焦点眼内レンズの目の屈折(近視、遠視、乱視の度数)の状態や、今回白内障になった目の状態によって総合的に判断します。適応があるかどうかは十分な検査をしてからご説明します。
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※手術目的の方が多いため、待ち時間が長くなることもあります。

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